拡散型圧力波治療の実際

下肢の症例報告 (1)

下肢の症例報告 (2)

上肢の症例報告 (1)

上肢の症例報告 (2)

 

■下肢症例報告(1)変形性膝関節症高位脛骨骨切り術 術後拘縮

医療法人 和幸会 阪奈中央病院 スポーツ・関節鏡センター 理学療法士  佐竹 勇人

(早稲田大学 スポーツ科学学術院  熊井 司 監修)

  1. 症例

    ‐ 47歳 女性 左変形性膝関節症 高位脛骨骨切り術 術後2か月

    ‐ 左膝関節屈曲の可動域制限あり:

      術前:  130°(他動)

      術後9週: 105°-110°(自動・他動)
     

  2. ポジショニング

    ‐ 膝蓋腱:  背臥位にて膝伸展位

    ‐ 大腿四頭筋:背臥位にて膝関節屈曲位。屈曲角度は患者自身が可能な範囲とした。
     

  3. 治療プロトコール

    ▼治療部位

    拡散型圧力波(以下、R-PW)照射前に関節可動域訓練・ストレッチング・筋力強化等の理学療法を施行。その後、患者に膝関節を自動運動で屈曲させたところ膝蓋腱に伸張痛を確認したため、その疼痛部位をR-PWの照射部位とした。また、膝蓋腱へのR-PW照射後に再度膝関節を屈曲すると、今度は大腿四頭筋遠位(膝蓋骨上縁付近)に伸張痛を訴えたためR-PWで追加治療を行った。

    ▼治療パラメータ

     ‐ 膝蓋腱:    トランスミッター:R15、照射数:2,000発、エネルギー:1.0-2.0bar

     ‐ 大腿四頭筋:    トランスミッター:R15、照射数:2,000発、エネルギー:1.0-2.0bar

    R-PW照射後は膝関節屈曲の関節可動域訓練と、膝関節屈曲伸展の自動運動などの自主訓練を実施するよう指導。
     

  4. 結果

    R-PW照射前後の膝関節屈曲角度評価の変化:

     ‐ R-PW照射前(図1a):           105-110°

     ‐ 膝蓋腱へのR-PW照射直後:      115-120°   ※この時点で膝蓋腱の伸張痛は消失。

     ‐ 大腿四頭筋へのR-PW照射直後(図1b): 120-125°

     ‐ R-PW照射翌日(図1c):        130°

    術前と同等の可動域を獲得したためR-PW治療を終了した。
      

  5. 治療のポイント

     ‐ 徒手やストレッチ等で容易に改善できるポイントにはR-PWは実施しない。

     ‐ R-PW照射部位は、問診、触診、誘発テスト等で念入りに評価を行い決定する。

     ‐ R-PW照射後は再評価を行い、効果の有無、追加の照射が必要であるかを判断する。

     ‐ R-PWを用いる目的が筋の柔軟性や可動域の改善である場合は、対象の筋や軟部組織に対して、

    他動・自動で関節可動域訓練等の運動療法を持続して行う。

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    図1a Before

     

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    図1b After

     

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    図1c 24時間後
    自動運動による膝関節屈曲角度を撮影。Image Jにより角度を算出し、3回測定の平均値を採用。

 

■下肢症例報告(2)アキレス腱断裂術後拘縮

医療法人 和幸会 阪奈中央病院 スポーツ・関節鏡センター 理学療法士  佐竹 勇人

(早稲田大学 スポーツ科学学術院  熊井 司 監修)

  1. 症例

    ‐ 54歳 男性 左アキレス腱断裂縫合術 術後5か月

    ‐ 術創部周囲の癒着が著明

    ‐ 足関節背屈可動域制限あり 背屈9.5°

    ‐ 徒手筋力テスト 左足関節底屈2レベル

    ‐ カーフレイズ時に術創部周囲につまり感と疼痛(NRS6)が出現
     

  2. ポジショニング

    腹臥位にし、足はベッド端から出す。足関節角度は定めない。
     

  3. 治療プロトコール

    ▼治療部位

    問診と触診を行い、術創部周囲の癒着部に足関節自動背屈時に伸張痛、下腿三頭筋収縮時につまる感覚が生じていたため癒着部(図1)、そして背屈時に伸張感が生じた腓腹筋内側頭の2か所をR-PWの照射部位とした。

    ▼治療パラメータ

     ‐ 癒着部 トランスミッター:R15、照射数:2,000発、エネルギー:1.5bar

     ‐ 腓腹筋 トランスミッター:D20、照射数:2,000発、エネルギー:1.5bar

     ‐ R-PWによる治療後は自主トレーニングとして、段差を用いたeccentric exerciseを継続して行ってもらった。
     

  4. 結果

    R-PW実施後は可動域・疼痛等の改善が得られた。

     ‐ 再来院時には足関節背屈角度の低下、筋力低下、疼痛の再発は認めなかった。

     ‐ R-PW照射前後の各評価項目の変化: 背屈角度(図2): 照射前9.5° → 照射後15°

     ‐ 羽状角(図3): 照射前28.9° → 照射後24.1°

     ‐ 疼痛(カーフレイズ時のNRS): 照射前6 → 照射後0

     ‐ 表面筋電図(カーフレイズ時の腓腹筋): 照射前148μv → 照射後201μv
     

  5. 治療のポイント

     ‐ R-PWを照射した部位は、問診と触診、誘発テストで痛みの再現性があるかを評価した上で決定した。

     ‐ 本症例では、伸張痛とつまるような違和感が強く出現していた術創部近位に癒着が生じていると考え、その周囲にR-PWを照射した。

     ‐ 筋活動の低下が見られた腓腹筋にも滑走性不全が生じている可能性があると考え、R-PW治療を実施した。

     ‐ R-PW治療後は自動運動を継続することが有効である。

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    図1

     

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    b_300_189_16777215_00_images_佐竹先生画像_図2b.png
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    図2 足関節背屈角度(自動)
    自動運動による足関節最大背屈角度を撮影。Image Jにより角度を算出 3回測定の平均値を採用。

     

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    図3 羽状角
    足関節背屈10°で固定し、超音波にて画像を撮影。筋束と深部腱膜のなす角度をimage Jより計測。1画像につき3本の筋束との角度を求め平均値を採用。
    ※羽状角測定時は筋電図を用い、筋活動が生じていないことを確認。

 

■上肢症例報告(1)凍結肩

医療法人 三仁会 春日井整形外科 リハビリテーション科 理学療法士  水谷 仁一

(医療法人 三仁会 あさひ病院 スポーツ医学・関節センター  岩堀 裕介 監修)

  1. 症例

     ‐ 41歳 男性 既往歴なし

     ‐ 2017年8月頃から左肩関節に疼痛出現。

     ‐ そのまま自己判断にて経過観察していたが、疼痛がさらに増悪し関節可動域制限も著明となったため、2018年8月に当院を受診し凍結肩と診断。

     ‐ 2018年9月より保存療法(理学療法のみ)開始。疼痛改善したが拘縮が残存したため、2019年5月より拡散型圧力波治療(以下、R-PW)を追加。
     

  2. ポジショニング

     ‐ ステップ1: 仰臥位(肩関節外旋位)

     ‐ ステップ2: 側臥位(患側上。肩関節屈曲・内旋位)

     両肢位ともに肩関節は可能な限りストレッチングポジションをとる。
     

  3. 治療プロトコール

     ▼ステップ1:

    肩関節を外旋位に保持しながら腱板疎部から前下関節包にかけてR-PWを照射する(図1)。

    腱板疎部中心にR-PW照射する場合は肩関節下垂位。前下関節包中心に照射する場合は可能な限り肩関節外転外旋位で照射する。

     ‐ 治療パラメータ: トランスミッター:DI20 or C15、照射数:2,500発

     ▼ステップ2:

    可能な限り肩関節挙上内旋位を保持させながら後下関節包を中心にR-PW照射する(図2)。

     ‐ 治療パラメータ: トランスミッター:D20T、照射数:2,500発
     

  4. 結果

    関節可動域の変化:

     ‐ 初期評価:     屈曲95°、外転70°、外旋15°

     ‐ 5回照射後再評価:  屈曲155°、外転120°、外旋25°
     

  5. 治療のポイント

     ‐ 関節可動域制限が強い運動方向から拘縮組織を絞り、的確にR-PWを照射する必要がある。

     ‐ 肩関節拘縮にR-PWを照射するポイント:

      1) 対象とする組織を伸張させた肢位で照射する。

      2) 肩関節の場合拘縮による代償運動が生じやすい事から関節の固定が重要となる。

    例えば、肩関節外転外旋を行うと上腕骨頭は背側へ偏移(伸張した方向と逆方向に上腕骨頭が偏移)するため、 背側から上腕骨頭を押し上げてR-PWを照射する(図3)。

      3) R-PW照射後には必ず関節可動域訓練を合わせて行う。

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図1 腱板疎部に対するR-PW
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図2 後方関節包に対するR-PW
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図3 代償を抑制しての前下関節包に対するR-PW

 

■上肢症例報告(2)肘関節拘縮

医療法人 三仁会 春日井整形外科 リハビリテーション科 理学療法士  水谷 仁一

(医療法人 三仁会 あさひ病院 スポーツ医学・関節センター  岩堀 裕介 監修)

  1. 症例

     ‐ 10歳 女児 既往歴なし スポーツ:器械体操

     ‐ 2019年1月床競技中に着地失敗し、左肘関節受傷。近医を受診し骨折と診断される。

     ‐ 手術が必要と判断され手術目的で総合病院へ紹介されたが、保存的治療の方針となり(ギプス固定6週 + ギプスシーネ3週)、経過観察のみで対処。

     ‐ 2019年5月肘関節可動域制限著明のため紹介受診。屈曲拘縮著明のため拡散型圧力波治療(以下、R-PW)と可動域訓練処方。
     

  2. ポジショニング

     ‐ ステップ1: 仰臥位(肘関節最大伸展・肩関節の代償(過度な伸展)に注意)

     ‐ ステップ2: 仰臥位(肘関節最大伸展・肩関節の代償(過度な伸展)に注意)
     

  3. 治療プロトコール

     ▼ステップ1:

    肩肘関節を伸展位に保持しながら前方関節包にかけてR-PWを照射する(図1)。

     ‐ 治療パラメータ:  トランスミッター:C15、照射数:2,500発

     ▼ステップ2:

    肘関節を伸展位に保持しながら上腕二頭筋筋腹から停止部・前腕回内屈筋群に対しR-PWを照射する(図2)。

     ‐ 治療パラメータ:  トランスミッター:D20S、照射数:2,500発
     

  4. 結果

    関節可動域の変化:

     ‐ 初期評価:      屈曲150°(右155°)、伸展-35°(右+20°) ※回内・回外は拘縮-

     ‐ 10回照射後再評価: 屈曲155°、伸展-5°
     

  5. 治療のポイント

     ‐ 肘関節屈曲拘縮に対してR-PWを照射するポイント:

      1) 肘関節最大伸展位でR-PWを照射する。

      2) 前腕回外位で前方関節包に対してR-PWを照射する。

      3) 肘関節屈曲拘縮の場合、肘関節伸展に伴い肩関節伸展で代償する事があるため、肩関節の代償を抑制して照射する。

     ‐ 拘縮全般に対してR-PWを照射する場合、照射後に必ず可動域訓練を合わせて行う。

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    図1 前方関節包に対するR-PW
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    図2 上腕二頭筋筋腹から停止部・前腕回内屈筋群に対するR-PW