集束型体外衝撃波治療の実際Ⅱ

アキレス腱付着部症

膝蓋腱炎(ジャンパー膝)

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)

肩石灰性腱炎

 

■アキレス腱付着部症

医療法人社団 悠仁会 羊ヶ丘病院 リハビリテーション科 理学療法士  佐々木 和広

(医療法人社団 悠仁会 羊ヶ丘病院  倉 秀治  監修)

  1. 病因

    アキレス腱付着部症は2つの病態が考えられる。1つは腱が繊維軟骨を介して踵骨と付着した部分の腱付着部構造が下腿三頭筋の牽引ストレスにより微細損傷を起こして生じた炎症で、狭義のアキレス腱付着部炎とされる。もう1つはアキレス腱遠位部と踵骨後上隆起の間にある踵骨後部滑液包に反復した圧迫が加わり炎症を生じた踵骨後部滑液包炎がある。いずれも下腿三頭筋の柔軟性低下やスポーツや長時間歩行による反復した機械的ストレスを契機に発症し、不適合な靴の装着により悪化することもある。
     

  2. 診断

    症状は足関節背屈に伴う局所の疼痛であり、起床後の歩行開始時や長距離歩行、運動での疼痛が主となる。狭義のアキレス腱付着部炎ではアキレス腱付着部自体の圧迫により疼痛が誘発され、踵骨後部滑液包炎ではアキレス腱付着部前方を内外から圧迫するtwo-finger squeeze testにより疼痛が誘発される。X線画像で付着部から生じる骨棘や石灰化像の有無を、MRI撮影で腱付着部の輝度変化や踵骨後部滑液包の水腫を確認する(図1)と、アキレス腱踵骨付着部に輝度変化と踵骨後部滑液包に水腫様の輝度変化を認める。 
     

  3. ポジショニング

    F–SW照射時のポジショニングは、治療台に患者を腹臥位とする。踵・アキレス腱を露出させた上、バスタオルなどを丸めたクッションの上に下腿遠位を乗せ、足関節を軽度背屈に保ち安定させる。圧痛部位を確認し、術者は患者の尾側に位置して足部を固定した上で、踵骨後方から垂直にハンドピースを当て照射を開始する。
     

  4. 治療プロトコール

    照射深度30mmのスタンドオフをハンドピースに装着する。 1回の治療における照射数は2,500発とし、照射出力(エネルギー流束密度(Energy Flux Density; EFD (mJ/mm2))は0.10〜0.20 mJ/mm2の範囲において疼痛自制内最大の強度とする。この治療を2週間に1度の頻度で合計3回行う。
     

  5. 治療のポイント

    踵部は丸みを帯びているためハンドピースを徒手的に固定するときに苦慮することがある。その場合、患者の足部を治療台にベルクロ(マジックテープ)のついたバンドなどを用いて簡易的に固定し、ハンドピースを両手で把持するとよい。また、炎症の部位が狭義のアキレス腱付着部と踵骨後部滑液包の両方に存在する場合、照射時に訴える最大疼痛部位が複数箇所ある場合もあるので状況に応じて照射部位を増やすことも考慮する。 踵骨が回内してしまう扁平足の場合はアーチサポートを、靴の踵部がアキレス腱付着部と衝突しやすい場合はヒールカップを備えたインソールやハイカットの靴を使用するなど局所にメカニカルなストレスを集中させないように指導する。理学療法として下腿三頭筋や足底腱膜の柔軟性の改善とともに、疼痛が減ってきたら下腿三頭筋の遠心性筋力トレーニングを併用することも有用である。

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    図1 MRI T2矢状面

 

■膝蓋腱炎(ジャンパー膝)

筑波大学 医学医療系 スポーツ医学  金森 章浩

  1. 病因

    スポーツ活動で、膝蓋腱に繰り返しの負荷がかかると膝蓋腱が微少断裂をおこす。通常は治癒機転がはたらくが、負荷が継続した場合には治癒機転がおこらず、腱組織が変性する。その変性組織内には新生血管や神経が侵入して疼痛を引き起こすと考えられている。また膝蓋骨下極の形態によっても膝蓋腱のインピンジがおき、腱の変性につながることもある。
     

  2. 診断

    運動時の膝蓋腱の痛みと同部の圧痛があればまず本疾患が疑われる。初期であれば運動制限と大腿四頭筋のストレッチなどで症状が軽減するが、長期にわたる場合は画像診断を行う。X線検査では膝蓋骨の形状、超音波では膝蓋腱の連続性の異常や腱内の新生血管に注目する。MRIも有用であり、腱の肥厚や腱内の輝度変化、膝蓋下脂肪体の輝度変化などが認められる。膝蓋腱炎と思われても、膝蓋大腿関節の異常のこともあるため、理学所見と画像所見を総合的に検討する必要がある。
     

  3. ポジショニング

    診察台上に仰臥位となり、タオルやまくらで膝関節屈曲位とする。膝関節伸展位では膝蓋骨が不安定となり、照射位置がぶれてしまう。圧痛点にマーキングをし、超音波を用いて病変部を確認する場合もある(図1)。
     

  4. 治療プロトコール

    ハンドピースをあて、低レベルの出力で開始するが、その際に衝撃波が腱の痛みの部位を正確にとらえているかを確認し、徐々に出力を上げていく。痛みに耐えられない場合はその出力で30秒ほど経過をみると痛みの感覚が鈍くなり、引き続き出力を上げていくことが可能となることが多い。通常は2,500発の照射を行うが、シーズン中などは半分程度に抑えることもある。治療回数は2~3週間に1回、計3回行う。
     

  5. 治療のポイント

    アスリートにとってジャンパー膝の痛みはパフォーマンスに大きく影響する。 体外衝撃波治療は痛みの軽減には非常に有効という印象がある。シーズン中の選手では、まず痛みをとることを念頭に、少ない照射数で頻回に治療を行うことが多い。シーズンオフで腱症の治癒まで期待する場合は、高出力で2,500発まで行いその後も完全安静にするのではなく、eccentric exerciseを含めたトレーニングを継続する。 また腱症の範囲をMRIで正確に把握しておくことも重要である。病変が膝蓋下脂肪体にまで及ぶような場合(図2)には思うような効果が得られないこともあるため、その際はPRPなどの別の治療法の選択も考慮する。

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    図1

     

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    図2

 

■上腕骨外側上顆炎(テニス肘)

医療法人 三仁会 あさひ病院 スポーツ医学・関節センター  岩堀 裕介

  1. 病因

    短橈側手根伸筋腱(ECRB)の退行変性・オーバーストレスにより、上腕骨外側上顆の腱起始部の微小断裂、外側上顆外壁との摩擦を生じて、肘関節外側の疼痛を生じる。病変はECRBから長橈側手根伸筋腱(ECRL)や総指伸筋腱まで拡大したり、外側滑膜ひだ障害、腕橈関節変形性関節症、外側側副靭帯機能不全による後外側回旋不安定症(PLRI)を合併することもあるため、スペクトラムを持ったlateral elbow painful syndromeと捉えられるようになっている。
     

  2. 診断

    外側上顆部の圧痛・腫脹、疼痛誘発テストとしてThomsenテスト、中指伸展テスト、Chairテストがある。外側滑膜ひだ障害の合併についてはfringeテスト、外側側副靭帯機能不全の合併については後外側回旋不安定性テスト(PLRIテスト)をチェックする。握力測定時の疼痛と握力低下(対側比)は有用な指標となる。画像所見としては、エコーでのECRB起始部のlow echoや血管増生(図1)、MRIでのECRB起始部のT2高信号や外側滑膜ひだの確認が重要である。単純X線像で外側上顆部の骨棘や石灰化が確認されることもある。
     

  3. ポジショニング

    仰臥位で患肢の肘下に小枕を置いて肘関節は軽度屈曲位として、患者にはリラックスしてもらう(図2)。
     

  4. 治療プロトコール

    集束型体外衝撃波治療器であるDUOLITH®SD1 ultra(デュオリスSD1 ウルトラ)を使用する。上腕骨骨外側上顆部の圧痛とエコー所見により病変部位と深さを確定してピンポイントで施術を行う。出力は0.01mmJ/mm2から最大0.25mmJ/mm2まで徐々に上げていき患者さんが我慢できる最大の出力で行い、1回の照射は2,500ショットとし、照射間隔は1週間程度、3~5回を1クールとする。
     

  5. 治療のポイント

    上腕骨外側上顆炎の病変部位は皮膚から10mm以内と浅いためロングのスタンドオフ(照射深度を調整するアクセサリー)を使用する(図3)。照射時の疼痛の誘発部位を探りながら微妙に照射部位を変更する。複数回施行する場合に、有痛部位が変化することがあるので、毎回実施前に圧痛とエコーにより病変部位を確認する。出力は高い程有効性が高いと言われているが、照射時痛には個人差があり、また不快な疼痛を経験すると治療の継続に支障をきたすため、出力の上昇は個々の患者の疼痛を確認して慎重に行う。著効は1回目で除痛効果を認めるが、一般的に効果は2回目以降に自覚されることが多いため、疼痛が増強しない限り最低2回までは実施してみる。2回実施しても明らかな効果がみられない場合は、3回以降で徐々に効果が現れる可能性もあるため、患者さんと相談の上、中止または続行を検討する。ECRBの剥離が重度な例、外側滑膜ひだ障害を合併している例では有効性が低い。通常3~5回を1クールとしている。

    b_400_206_16777215_00_images_岩堀先生画像_図1.jpg
    図1 上腕骨外側上顆炎のエコー所見

     

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    図2 上腕骨外側上顆炎に対する集束型体外衝撃波療法の実際

     

■肩石灰性腱炎

千葉大学 医学研究院 整形外科学  落合 信靖

  1. 病因

    肩関節にはいわゆるインナーマッスルといわれる腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)があり、その腱板にハイドロキシアパタイトを主体とした石灰が沈着する疾患である。原因については腱の加齢・力学的負荷による退行性と血行不良により石灰が誘発されると考えられている。症状のない無症候性の場合もあるが、疼痛を認める場合、肩峰下滑液包に炎症所見を認める。病気は急性、亜急性、慢性と分類され、体外衝撃波治療の適応となるのは6か月以上石灰が残存し、症状が続いている慢性期の状態である。
     

  2. 診断

    診断は通常の理学所見と画像診断で行う。理学所見では石灰沈着の部位により異なるが、最も多いのは棘上筋と棘下筋の移行部位に認められ、肩の内外旋によりひっかかりや挙上での痛み、筋力低下が生じる。一方小円筋や肩甲下筋に石灰が沈着する場合、違和感や痛みがメインとなることが多い。通常は肩関節のレントゲン撮影を行うことにより診断可能である。最も多いのが棘上筋と棘下筋の移行部のため、通常肩の内外旋、スカプラYに加え、中間位での撮像を行う。また詳細な部位の把握のため、CTを撮影すると大きさ等が分かり有用である。
     

  3. ポジショニング

    部位により照射方法が異なる。超音波エコーが付属されている体外衝撃波デバイスもあるが、肩甲下筋腱の肩石灰性腱炎の場合それを用いてターゲットを絞ることは困難なため、独立した超音波エコーで石灰部位と深さを確認、マーキングをし、前方より照射を行う。棘上筋、棘下筋の場合は外側より付属の超音波エコーで石灰を確認し、石灰に焦点を合わせて(図1)、軽度外旋位で前方より体外衝撃波照射を行う(図2)。一方小円筋の場合石灰部位が後方のため、肩を内旋位として、外側よりエコーで石灰を確認し石灰に焦点を合わせて照射を行う。
     

  4. 治療プロトコール

    特定のプロトコールはないが、現在はなるべく痛みに応じた最大のエネルギーで照射を行うことが重要と思われる。衝撃波の照射は、照射直後は痛みを強く感じることが多いが、しばらく照射を行うと痛みが緩和される場合が多い。そのため、最初から強いエネルギーで照射すると痛みが強いため、低いレベルで照射を行い、徐々に強いエネルギーへ上げていく。照射回数についても決まりはなく、1回あたり、2,000発から5,000発、総照射エネルギー量(1回あたりのエネルギー量×照射発数)を800mJや1,300mJと設定して照射を行うことが多い。
     

  5. 治療のポイント

    肩石灰性腱炎に対する体外衝撃波療法では石灰に体外衝撃波のエネルギーを集束させることが重要である。そのため、体外衝撃波装置にエコーが付属している場合はターゲットを石灰に絞り照射を行う必要がある。また付属のエコーがない場合は、照射前に石灰の部位と照射方向、深さを確認し、エネルギーが集束する焦点距離に石灰が来るように照射方向を設定する必要がある。また照射の際に痛みを感じる場合が多いため、痛みに応じて徐々にエネルギーを上げていくことが重要である。患者さんが無理に痛みを我慢していると迷走神経反射が生じる場合があり注意が必要である。また痛みが強い場合は照射部位に局所麻酔剤を注射することも有用である。

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    図1

     

    b_400_301_16777215_00_images_落合先生画像_図2.jpg
    図2