集束型体外衝撃波治療の実際Ⅰ
医療法人 紺整会 船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター 高橋 謙二
- 病因
主に足底腱膜内側線維束の踵骨付着部やその遠位で発症する腱症が本態である。高齢、過体重、回内足、下腿のタイトネスによる足関節背屈障害などさまざまな要因の中、腱膜に機械的な圧迫ストレスや伸長ストレスが過度にかかることにより発症する。腱の微小損傷の繰り返しに加え、組織学的には細胞浸潤を伴うコラーゲン線維の配向不良、血管や神経線維の増生による神経伝達物質の過剰な局在が認められ、難治性の有痛性病変が形成される。これらのことから治癒過程が進みづらいとされている。また腱周囲の滑液包炎や脂肪体炎、骨髄浮腫を伴う踵骨棘により、更に痛みを助長し機能障害に至る場合もある。
- 診断
踵骨付着部やその遠位の腱膜上にある圧痛が最も重要な所見であり、硬結を触知することも多く、また、母趾背屈により痛みが誘発されることもある。エコー検査では腱膜肥厚に伴うfibrillar patternの開大や低エコー像が特徴的であり(図1)、MRIでは脂肪抑制像で腱膜周囲浮腫、腱膜内高信号域、踵骨骨髄浮腫などを認める(図2)。このような腱膜病変が認められると確定診断となる。一方、X線では踵骨棘や扁平足などを認める。脂肪織炎、短母趾屈筋の変性断裂、踵骨疲労骨折などの鑑別診断が重要である(図3)。
- ポジショニング
集束型体外衝撃波治療には、エコーガイド下に照射する機器と、事前にエコーで病変部の位置を確認した後に直接患部に照射する機器がある。前者では側臥位でエコープローブを足底より当て、エコーガイド下に衝撃波を内側より照射する。後者では事前にエコーで病変部の方向と深さを確認し、それを参考に腹臥位で足底より衝撃波を照射する(図4)。いずれも照射中の疼痛再現を確認することが重要である。
- 治療プロトコール
体外衝撃波治療の保険適応は唯一本症に対して認められており、一連につき5,000点である。そのため3か月に3回の治療を行うことを1クールとし、2~4週間隔で治療を行い3か月ごとに評価し、必要ならば2クール目を行うか検討する。照射条件は、原則1治療あたり2,000発、我慢できる最高出力で行う。照射頻度は疼痛再現が得られるまでは低頻度で位置と方向を決め、確認できたら高頻度で照射を行う。局所麻酔は使用しない。
- 治療のポイント
第一に重要なのは正確な診断である。体外衝撃波治療の有効予測因子として、踵部の圧痛点を認めること、MRIで腱膜肥厚や踵骨骨髄浮腫を認めること、更に腱膜内にT2強調像で高信号域を認めることなどとされている(図2)。一方、MRIでこのような所見が乏しく脂肪織炎や短母趾屈筋の変性などが主因と考えられる場合は体外衝撃波治療の有効性は限定的であろう。 実際の治療では、病変に対し正確に照射することが重要であり、照射中は疼痛再現を確認することを心がける。治療効果は開始後しばらくして徐々にみられてくることが一般的で、患者にはその旨を伝えておくことが安心につながる。3か月で十分な満足が得られなくても、その後の経過観察や追加治療で成功率が高まると考えて良い。実際、疼痛レベルが半減以上した症例は、治療開始後3か月時点で約6割、平均約1年の最終経過観察時で8割以上であった。
図1 足底腱膜炎のエコー像(踵骨に付着する足底腱膜の超音波画像) 正常の足底腱膜(a)と比較して、足底腱膜症の患者(b)では腱膜が肥厚し、fibrillar patternの開大や低エコー像を認める。
※矢頭:足底腱膜図2 足底腱膜症のMRI画像 a. 付着部型:腱膜の肥厚を伴う腱内高信号域、腱膜周囲浮腫、踵骨骨髄浮腫
b. 非付着部型:腱膜の肥厚を伴う腱内高信号域図3 鑑別診断
医療法人 尽心会 百武整形外科病院 田中 博史
- 病因
足舟状骨疲労骨折は陸上競技の短距離、中・長距離に多く、その他の種目としてバスケットボール、野球、ラグビー、ハンドボールなどの競技者に発症しやすいとされ、アーチが高く、下腿三頭筋のタイトネスを認める症例に多い。発症メカニズムは内側支柱に加わる圧縮力や、後脛骨筋腱付着部とばね靭帯による牽引力が大きく関わっていると考えられており、急激な練習量の増加に伴って発症する。
- 診断
症状は運動時や運動後のみ痛みを感じることが多く、明確に痛みの部位を特定しにくいため見逃され易い。 診断上特に重要な所見は舟状骨背側中央で長母趾伸筋と前脛骨筋腱の間のN-spotと呼ばれる圧痛点に見られる。 初期は他の疲労骨折同様に単純X線で捉えることが難しいため、舟状骨疲労骨折を疑ったらMRIで診断する。単純X線で明確に骨折線を認める場合は偽関節となっていることもあり、 CTで詳細な骨折型を評価し、治療方針の指標とする。
- ポジショニング
患者は仰臥位で、足底を接地してリラックスした状態で行う。事前に超音波を用いて舟状骨の照射部位を確認し、マーキングしておく(図1,2)。
- 治療プロトコール
- 超音波診断器を用いて診断する。照射の深さを確認し、照射深度を調節するためのスタンドオフを選択する。
- 照射部位を触診し、痛みの部位を再確認する。
- 痛みの部位を確認しながら治療を開始する。
- エネルギー流速密度:0.08-0.15mJ/mm2、 3,000発/回、インターバル1週、 1クール3回
- 治療のポイント
足舟状骨疲労骨折は難治性疲労骨折の一つであり、文字通り難治である。したがって最も重要なことは早期診断、早期治療と同時に再発予防策を行うことである。具体的には細かい問診と診察を行い、疑わしい場合は早期にMRIを行うこと。単純X線、CTで骨折線を認めない早期の症例に対しては、スポーツを中止し、理学療法と体外衝撃波治療を1クール行う。治療開始後1ヶ月以降の画像所見の改善と圧痛の消失を確認してから、徐々にアスリハを開始する。骨折線を認める症例についても同様に保存療法を行うが、患者の希望によっては手術療法を選択する。骨折線を認める場合は骨癒合状態を確認してからスポーツ復帰となる。また、受診時に骨折線と硬化像を認める偽関節症例では手術療法を選択する。保存療法や手術療法のいずれを選択した場合も治療後の再発防止のため、急激な練習量の増加を避けてもらい、下腿三頭筋のストレッチ指導やランニングフォームのチェックなどを行う必要がある。
図1 図2
久留米大学医療センター 整形外科・関節外科センター 野口 幸志
- 病因
アキレス腱症は、踵骨付着部から近位2~6cmの解剖学的に血流の乏しい領域で生じる微細損傷や小断裂による、アキレス腱実質内の変性と退行性変化が主な病態である。病期が進行すると腱の瘢痕化がパラテノンへ波及し、腱との間で線維性癒着を起こし滑走障害を生じる。そのため、アキレス腱症とアキレス腱周囲炎は合併していることも多い。多くはoveruseによるスポーツ障害と考えられているが、下腿三頭筋の柔軟性低下や回内足などのアライメント異常、加齢や基礎疾患(糖尿病やステロイド使用歴など)も関連している。
- 診断
疼痛、腫脹、運動障害の三主徴を認めることが多く、周囲炎では熱感を伴うこともある。腱の肥厚や結節を触診でき、足関節の底背屈で捻髪音を認めることもある。単純X線では腱内の石灰化や骨化病変の有無を評価でき、MRIでは腱の肥厚や腱内または周囲の信号変化を評価できる。近年では超音波検査が有用であり、腱の肥厚像、fibrillar patternの消失、カラードプラで Kager’s fat padからの血管侵入を確認でき、これらは治療を考える上で重要な情報となる。
- ポジショニング
腹臥位になり患部の足関節前方にクッションを置き、足趾を背屈、足関節を軽度背屈することでアキレス腱を伸張させ安定させる(図1)。ベッド端から足を出し、セラピストの膝を使って足関節の背屈を補助しながら照射することもできる。
- 治療プロトコール
圧痛点をマーキングし、エコーで病変部位を確認後、その深度を計測する。アキレス腱症の照射深度は深くないため、15㎜のスタンドオフ(照射深度調整用のアクセサリー)を選択することが多い。その際、表層部にシリコンシートで作製したK2 gel-podを用いて焦点距離を調節し照射している(図2)。局所麻酔は使用せず、照射部位と疼痛部位が一致するか、患者へ確認しながら治療するbiofeedback照射を行う。1回の照射は2,000発とし、照射出力は痛みに耐えられる最高出力まで上げる。1〜2週間隔で計3回の治療を1クールとする。
- 治療のポイント
アキレス腱症に対する体外衝撃波治療の有効性は報告されているが、アキレス腱周囲炎に対する有効性は明らかにされていない。そのため、腱実質部障害と腱周囲組織障害の評価を超音波検査で正確に行う必要がある。治療の主軸は、下腿三頭筋の遠心性運動療法(eccentric exercise:EccEx)であり、3か月は継続するように指導する。EccEx単独でも有効性は示されているが、体外衝撃波治療を併用することで有効性が高まると報告されており、必要に応じて併用を検討する。しかし、EccExが行えないほど疼痛が強い症例に対しては、ヒアルロン酸の局所注入療法など他の治療の組み合わせを検討すべきである。合併症として、ステロイド注射の既往がある患者や高齢患者に対する体外衝撃波治療はアキレス腱断裂を引き起こす可能性があるため注意が必要である。
図1 図2